黒猫の夜想曲

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最終話 『雪桜の舞う時に』


雪桜さんが書いた遺書を最後まで読むと俺はいつのまにか頬から涙の雫が流れていた。
知らないうちに泣いていたようだ。雪桜さんの切ない想いがこの胸のどこかに突き刺さった。
だって、そうだろ。
雪桜さんを追い詰めたのは結局はこの俺だ。

最初は助けようとしたのに、今では苛めグループ以上に雪桜さんの死の淵にまで
追い詰める存在になったのだ。
これじゃあ、俺のやっていたことを妹を殺した殺人犯と何の違いがあるんだろうか? 
直接を手を下しているわけではないが、間接的でも雪桜さんを殺すことになる。
自殺まで追い込んだのは全てこの俺だよ。

認めてやる。認めてやるさ。
  殺人犯の娘だから距離を置く。それが二人にとっての幸せだと。
  そんな風に決断していたこと自体が間違いだったってな。
  だから、俺は雪桜さんにはっきりと言わなければならない。

 遺書をズボンのポケットに乱暴に押し込むと俺は走りだしていた。
雪桜さんの言う『幸せ場所で幸せな死に方をします』は全然検討がつかない。
目的の場所も定まらずに俺は無作為に雪桜さんと一緒に歩き廻った思い出の場所を探す。

 息が切れる。この猛暑の中で走るということはほとんど自殺行為に近い。
全身に流れる汗を拭く間もなく走る。それは辛いと思わない。
  雪桜さんの方がずっと辛い目に遭っていたのだ。これぐらいで根を上げているようじゃあ、
彼女を救うことができない。

 だが、俺は焦っていた。
  すでに電話を受け取ってから数時間以上が経過し、虎の騒動、家で遺書を読み、
こうやって走り廻っている間に陽は傾き始めている。
夏だからすぐに暗くなることはないが、すでに自殺志願者が自殺するには充分な時間が流れている。
雪桜さんの生存はほとんど絶望的だ。

 水分補給することなく、俺は胸が張り裂けそうな気持ちになって走り続ける。
雪桜さんの自宅、雪桜さんと一緒に行ったショッピングセンター。
雪桜さんに初めて買ってあげたあんまんが売っていたコンビニなど。
全て廻ったが、雪桜さんの姿はどこにもなかった。

 もう、ダメか。

 いや、一つだけ探していないとこがある。
  学校だ。
  夏休み期間中とはいえ、学校の中に入れる。
  あそこなら、雪桜さんと俺たちの思い出がたくさん詰まっているはずだ。

 ここがダメなら。もう、打つ手はなしだ。
  初めて出会った場所である校舎外れの周辺を探ったが、雪桜さんはいない。
もう、夕暮に差し掛る頃である。学校が閉まる前に俺は開いた窓ガラスから侵入して外靴のまま、
校内をうろついていた。

職員室には明かりがあったが、誰かに目撃されたらここで引き止められるので
俺は恐る恐る廊下を歩いた。
  雪桜さんの教室、俺の教室のとこに探したが、彼女はいない。

 だとすれば、雪桜さんのいる場所は決まっている。
  屋上だ。


 あそこは唯一二人きりになれる場所であった。俺と雪桜さんだけの世界。
あそこなら、雪桜さんが言っていた幸せだった場所に該当しなくはない。
だって、学校にいる間はほとんど二人で過ごしたのだ。
二人で談笑し合ってお弁当を分け合ったりして、一番楽しく過ごせた時間だった。

 屋上に続く階段を登る。
  傾いて行く夕日の眩しさが窓ガラスを通して入ってきた。
  日が終わる行く光景はこんなにも美しいのだと場違いな事を思いながら。
  屋上に出るためのドアを俺は躊躇なく開いた。

 そこにいたのは学制服を着ている雪桜さんの姿がたしかに在った。
  地上を寂しそうにフェンスを掴みながら見下ろしていた。
  心地よい風が舞う。
  俺は渇き切った喉の奥から声を出して言った。
「雪桜さん」

 思いもよらなかった人物が現われたおかげで雪桜さんは怯えた表情を浮かべて、
後ろに一歩下がってゆく。
俺がここに来ると思っていなかったのか、自殺を決め込んだ雪桜さんは動揺を隠さずにいた。
「あわわわわわ……。桧山さん!?」
「迎えにきたよ」
「こ、ここここ、来ないでください。それ以上近付いたら私はここから飛び降りるんだから」
「本当に死ぬ気があるんだったら。さっさと死んでるだろ」
「違うもん。今、死のうと思っていたんだから」
  フェンスの網に雪桜さんは足をかけた。
これ以上挑発すると雪桜さんは飛び降りそうだが、俺は関係なしに一歩ずつ雪桜さんとの距離を
埋めてゆく。
「雪桜さんが死ぬって電話をかけてから何時間以上が経っていると思うんだ? 
もう、数時間は経っている。本気で人生に絶望している人間なら死んでいてもおかしくはない。
だったら、何で雪桜さんは未だに死のうとしていない理由は……。
俺がここに来ることを信じていた?違うか」
「全然違います。違うんだもん」

 慌ててフェンスの網をかけ登ろうとするが、踏み外して雪桜さんは思わずこけてフェンスに
頭を打っていた。
痛いと叫んで、頭のおでこに手を当てながら蹲っていた。
  それこそ雪桜さんだよ。
  その間に俺は雪桜さんの距離を埋めて行く。
警戒する雪桜さんの視線が気になったが、俺は気にせずに近付こうとする。

「もう、こっちに来ないでぇ……」
「俺は信じていたぞ。心のどこかで雪桜さんは自殺しないってな。何の根拠もないけど」
「どうして? どうして、桧山さんは私のことを止めようとするの? 好きでもないくせに? 
私が今までどんな気持ちでいたのか知らないくせに。あの女のことが大好きなくせに。
もう、私のことを放っておいてよっ!!」
「違うよ。瑠依の事が好きじゃないんだよ」
「う、嘘だよぉ」
「嘘じゃない」
  緩慢な歩みで俺は雪桜さんとの距離をなくして、ようやく手に届くところまでその距離を縮ませた。
雪桜さんは逃げる気配を見せずに涙目にして俺を見つめ続けている。

 結局は全て悪いの俺なのだ。
  雪桜志穂。

 この少女が俺にとってどういう存在だったのかをもう一度だけ考えてみる。
いつも傍にいるだけで俺の心の隅々まで癒してくれる大事な女の子。一緒にいるだけで楽しかった。
幸せだったのだ。これからも手を繋いで一緒に生きていたい。
例え、自分の妹を殺した殺人犯の娘だったとしても、それがどうした。
  雪桜さんがいない世界はもう考えることはできないんだよ。俺は死者よりも今生きている人を選ぶ。

これが必然なんだ。人は一人じゃあ生きていけない。ようやく、俺は自分の気持ちに気付いたよ
バカタレ。
  だが、想いを伝えるのは勇気がいる。
  俺は精一杯の勇気を振り絞って雪桜さんを見る。
  雪桜さんの学生服の肩を掴んでそのまま俺は抱きしめた。

「うにゃ!?」
「俺、実は犬耳萌えなんだ」
「えっ?」
「だから、ずっと傍にいてください」
「ひ、桧山さん?」
  俺はそのまま抱きしめたまま、雪桜さんのを頭を優しく撫でた。いつもしてあげるように。
  彼女は硬直しているように見えるが、俺には多分視える。猫耳装備しなくても。
  雪桜さんの猫耳と猫尻尾は嬉しそうに左右に揺らしていると。
  更に言うなら、雪桜さんの頬がにやけていることもな。賭けていい。
 
  5秒経過
  10秒経過
  20秒経過
  30秒経過。

「うにゃあ。桧山さん大好きっっっっっーーーー!!」

 やはり、雪桜さんは雪桜さんだった。



「私頑張って桧山さんのワンちゃんになりますね」
  すでに陽は傾き周囲は真っ暗になっていた。雪桜さんは気持ち良さそうに
優しく頭を撫でられていた。
  スイッチが入った雪桜さんを宥めるには時間がかかる。
  その間、互いを強く抱きしめてイチャついていたが、雪桜さんは俺の体から離れていきなり
決心を決めたかのように真顔で言い放ったのだ。
  雪桜さんに強い力で抱きしめられているのは幸いだった。
  嬉しさの余りに俺は屋上から飛び降りたいぐらいに喜びを体で表現したくてたまらなかったからだ。

「えへへ。今日から私は桧山さんの彼女ですぅ」
「ああ。よろしくな」

 何度目かのキスを交わす。
  これからの日々を夢想しながら、俺たちはいつまでも抱き合った。


 エピロ-グ

 それから、数ヵ月後の月日が流れ。
  再び春の季節が訪れた。
  今年も桜が満開で散る桜の花々が舞っていた。
  さて、一体どこから話せばいいだろうか?
  俺は無事進級し、堕落な日々を送っている。
  今年は受験生なのだから必死に勉強しなきゃいけないのだが、勉強机に向かおうとすると
睡魔が襲ってくるので未だに勉強の一つもしていない。
  ああ、メチャクチャやばいかもな……。
  瑠依は、俺に振られてからも家に飯を食べにやってくる。幼児退行化する嘘がバレた次の日に
家にやってくる鈍い神経がうやらましい。
  雪桜さんはいい顔もせずに『私も桧山さんの家で食べます』と対抗心を燃やし、俺が作る食事は
2人分多く作ることになった。
  なぜ、二人分多く作るって? 決まっているだろう。
  由希子さんはついに家事をするのがだるくなったので母娘ども俺が作った食事を狙ってきやがる。
  なんて、恐ろしいんだ虎母娘は。
  内山田は相変わらず女装して俺が内山田に気のあるそぶりがあると
  クラス中や学年中に噂を流し放題でその噂を聞き付けた雪桜さんが
『むっ。私の桧山さんは渡せないんだからねっ!!』と半泣きで所有権を主張していたりする。
  いや、内山田に遊ばれていることぐらい気付けよ雪桜さん。

 肝心な雪桜さんはどうなったかというと。






桜が咲く季節に出会った苛められていた少女
その少女は自殺まで決意して、屋上から飛び降りようとした。
俺の告白を受けて、彼氏彼女の仲になって、それで・・

「はぅぅ。待ってくださいよ桧山さん」

それでこんな風に俺のすぐ傍にいてくれている。

 桜の散る通学路を俺と雪桜さんは仲良く歩いていた。
  俺の方が歩く速度が早いのか、時々雪桜さんの歩幅を合わせずに
先に進んでしまうことはたまにある。
「捕まえたぁ」
  嬉しそうな声を上げて、雪桜さんは俺の腕を組もうとしていた。
  あの数ヵ月前の出来事から俺達は彼氏彼女の関係として付き合っている。
  すでに学校では公認のバカップルとして名を広め、雪桜さんファンクラブに憎まれているが
それは別の話だ。

「桜の季節になると雪桜さんと出会った頃を思い出すよ」
「私も思い出しますよ。えへへ」
  頬がにやけているよ雪桜さん。
「今度、一緒に妹のお墓参りに付き合ってくれないか?」
「あの、私も行っていいんですか?」
「当たり前だろ。彩乃に俺にちゃんとした彼女が出来たことを報告しなきゃいけないんだから」
「あぅぅぅ。緊張しますよそれ」

 過去の束縛から抜け出して、ようやくお互いが笑い合う日がやってくる。
  きっと、彩乃も俺と雪桜さんとの交際を祝福してくれるはずだ。
  そして、俺達の関係は学園を卒業しても離れることなく続いてゆくだろう。

 あっ。一つだけ聞いておかなきゃな。


「雪桜さん。今、幸せ?」



「うん。幸せだよ」



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この記事に対するコメント


やばいほど面白いです
頑張ってください
【2010/01/21 22:43】 URL | ketC #- [ 編集]

承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
【2011/11/12 16:38】 | # [ 編集]


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