黒猫の夜想曲

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

お隣の彩さん  第10話『絶対監禁』



 ババアは当主である女性に連絡を取り合っていた。今後の展開次第では自分が任務を遂行するために戦場を赴く必要があったからだ。
 当主。
 あの敷地の支配者であり、政界にもいろいろと顔が利く大物。声はマイク音で偽装しているが、喋り方の口調からすると女性だ。だが、それ以上の正体はババアも恐ろしくて口を出すことはできない。ともあれ、当主が存在しているおかげで警察の方では事件を握りつぶしてもらい、ババアは安心して殺人を実行することができる。
『予想通りの展開です』
「しかし、彼が仕事を解雇されるなんて想定外なことがあったのだが」
『問題ないです。依頼主様が監禁すれば、それで契約は達成されたことになります。彼の周囲に何が起きようがこちら側に責任はありません』
「そうですかのぅ」
『問題は邪魔者の方です』
「人間のクズに襲わせるように工作を仕掛ける以前に邪魔者は人間のクズに拘束されているのじゃ」
『それはちょっと困ったことになりましたね』
「はい?」
『依頼主が内容の変更を申し出た。邪魔者に確固たるイチャイチャな交際を付き付け、絶対的な敗北を味あわせて欲しいようです。本来の内容は邪魔者がいれば即刻排除のはずでしたが、仕方ありません。依頼主の要望が最優先となりました』
「ならば、邪魔者を殺さなくてよいと?」
『そうですね。依頼主や彼に危害を加えない以上は殺さなくてもいいかもしれません。とはいえ、情報によると人間のクズが邪魔者に対して性的行為をしそうです。そんなことになれば、依頼主が望む惨めな敗北を味あわせることはできません』
「ならば、その人間のクズに殺害許可を」
「許可致します。なお、装備は金に物を言わせて、最高の武装を用意させて頂きましたよ。
ババア。久々に大暴れしても構いません。相手は政敵の関係者です。肉片を残らないぐらいにやってください。それでは」
「うむ」
 当主の連絡を途絶えるとババアは嘆息した。仕事の依頼の内容は状況によって変わることもがあるが、久々の人間狩りに血肉が湧き踊りそうだ。
「久々に大暴れしてやろうかのぅ」
 以前の依頼から3年以上は人を殺すような仕事は舞い降りて来なかった。管理人としてあの敷地の管理をする退屈な仕事をやってきたが。彼があのアパートを借りた時から、ババアはこういう時が訪れることを心待ちしていた。
 当主の望み。
 当主の裏商売。
 それらが全て成就することを意味している。
 この自分もそのために全身全霊で任務を達成しなければ。

 ふと、目が覚める。
 頭上から植木鉢が落ちて来るという漫画みたいなオチのような夢を見てしまった。その夢の影響だろうか、さっきから俺の頭に鋭い痛みが襲ってくる。
 目を開けると、俺は愕然とした。
 見知らぬ部屋のベットで俺は寝かされていた。部屋は真っ暗で何も見えないが、ここは俺の部屋ではない。少しぼんやりしているようだが、俺の記憶が確かならば、自分の部屋は引っ越しするための準備とかで生活用品類は片付けたはずだからだ。
 ということは?
 隣から俺ではない体温の温もりを感じられた。心地良い暖かさと柔らかい感触に心のどこかが癒されそうになる。
 そう。
 ある程度の暗闇に目が慣れ始めるとその温もりの正体はあっさりと判明した。
 幸せそうに寝息を立てながら、俺の隣に枕を置いて寝ていたのは彩さんであった。
 俺の右腕をしっかりと掴んで、自分の胸元に押し付けるように腕を絡めていた。
「桜井さん?」
 隣に寝ているのが彼女だとわかると違う意味で俺は驚きを隠せずにはいられない。気を失うまでの記憶ははっきりと覚えているが、彼女が俺の隣に寝ているまでの過程がすっかりとわからない。
 もしや、俺が血迷って彩さんと一夜を過ごした可能性も否定できない。
 どうすればいい?
「ふにゃ……忍さん。起きたんですねぇ」
「何で桜井さんが隣で寝ているんだよ」
「それはですね。私が忍さんを監禁しちゃったからですよっ!」
「へぇ?」
 眠たそうに目を手で擦って起き上がった彩さんが組んでいた俺の腕を離して、俺の身体を押し倒していた。甘えるように俺のほっぺたに彼女の頬が触れ合った。
「さ、桜井さんっっっ……」
「もう、離しません。絶対に。忍さんは今日から私だけのものなんですからね」
「ちょっと待て。さっぱりとわからないぞ」
「言ったじゃないですか。忍さんを監禁したって」
「監禁?」
「そうですよ。忍さんを監禁しました。今日から私の許可無くこの敷地に出ることは絶対に許しません。ずっと、ずっと、私の傍にいてください」
 却下する。
 と、本人の目の前ではっきりと断言したら俺は度胸のある男として、近所の皆様から噂されることに間違いないのだが。うんうん。世の中にはケンカを売ってはいけない人種と言うか、モンスターと言いますか。過去のご先祖様は名言を残してくれました。地震、雷、火事、親父。そして、ヤンデレには手を出すなと。
 そう、今の彩さんは精神的に病んでいる状態、『ヤンデレ』という生物に生まれ変わっていました。ヤンデレ症候群感染者の症状は愛しいあの人を独占したい。自分だけを見て欲しいという欲求に忠実で、消極的だったあの子が超積極的になってしまうぐらい変貌してしまう。特に重傷者の女性は愛しい人を恋する乙女のパワーとかで自宅内で監禁してしまう事例がある。
 そう。
 今の俺がまさにその監禁に現在進行中で遭ってます。助けてください。ヘルプミー。
「断る。拙者は自分より強い奴に会いに行きます!!」
「うにゃ?」
「じ、冗談です。俺が桜井さんのことを拒むはずないじゃないですか。(時と場合によるけど)」
「むむむっ……」
「どうしたの?」
「忍さん。桜井さんなんて他人行儀な呼び方なんてやめてください。私のことを、その、ちゃんと名前でお願いしますよ」
「へぇ?」
 自分の視点では桜井さんのことを彩さんと名前で語っている。それほどの親密な仲でもないし、馴れ馴れしく名前で呼ぶのは個人的にどうかと思う。友人ではなくて、隣人の距離はマリアナ海溝より深く、サバンナのような熱帯長草草原地帯よりも弱肉強食が激しい。昔の日本のような密接した隣人関係は存在してないのだ。仮に俺が彩さんと仲良くなるためにフラグを立てるだけで、彼女は警察へストーカーに遭っているという被害を相談するだろう。そして、張り込んでいる警察官にストーカーの現行犯で逮捕されるという現実が待っている。
 この年齢で留置所になんて入りたくもないし、刑務所も悟りを開きに行くようなもんさ。
 とはいえ。
 女の子の名前を呼ぶのは気恥ずかしい。
 しかし、彩さんが呼んでくれることを期待した瞳で俺を見つめている。その期待を裏切るのはさすがに罪悪感を感じる。
 仕方なく俺は……彼女の名前を言った。
「彩さん」
「はい!!」
 無垢なる笑顔で彩さんは微笑んでいた。今まで見たこともない表情に俺の鼓動は少しだけ高鳴りが抑えられずにいた。
「えへへ。忍さん。好き。好き。大好きですよ」
 子猫が親猫に甘えるように俺の首筋に彩さんの頬が擦り寄ってきた。
「あ、あ、彩さんっ。ちょっと」
「いいじゃないですか。今日からは私が忍さんのご主人様ですよ。えっへん」
「すでに主従関係が決まっているのか!?」
「その、忍さんは監禁されたんですから。監禁した女の子の言うことを聞くべきだと思います」
「俺の新たな生活はマグロ漁船でマグロ食べ放題ではなくて、彩さんと監禁生活かよ!!」
「それが運命です」
「そんな運命はいらん!!」
 正直、天然の獲れたばかりのマグロと彩さんの監禁生活を天秤にかけるとどちらの選択肢を選べばいいかわからない。ただ、わかっていることは彩さんの監禁生活に待っているのは果てしない苦渋の日々だということだ。
「さてと忍さんも目を覚ましたことですし。朝ごはんにしましょうか」
「朝御飯を食べている場合じゃあないだろ」
「今、電気を点けますけど。あの何があってもひかないでくださいね」
「うん?」
 押し倒していた柔らかな体の感触が離れて、彩さんはベットから降りる。真っ暗な部屋をただ足音だけが聞こえるのみ。しばらくしてから、何かのスイッチを押す音がした。
 電球が眩く周囲を照らした。
 そして、この部屋の実態に息を呑んだ。
「これは……何?」
「忍さんが見たとおりです」
 自分が居る場所はベットの上であったが、その部屋は引越しを手伝った時の彩さんの部屋ではなかった。大体、彼女の部屋の広さとは全く違う。この部屋の広さは俺と彩さんの部屋を繋げ合わせたぐらいの広さだ。それに壁の模様は異常であった。壁全体に俺の写真が、隙間なく張られていた。その写真には全く見覚えもないし、撮った記憶もなかった。
 更に、薄暗く映るモニターが大量に置いてあった。そのモニターの中の風景は引っ越しで荷物がなくなった俺の部屋のあらゆる視点や角度が映されている。死角がないようにモニターで監視できるようになっていた。
 そして、この部屋の入り口にある部屋のドアは金属製の鉄格子でその奥には上に上がる階段らしきものが見えていた。
 さすがの俺もこの状況ではボケの一つも浮かび上がってこない。
 彩さんは確かに俺を監禁すると言った。
 好きでもない男性を監禁する女の子はいない。監禁するような女の子はその人が好きでたまらないんだけど。内気な性格のおかげで告白する勇気が持てず、ひたすら相手のことを想って、想っている最中に他の異性と仲良くしている光景を見ただけで頭のネジの一本や二本が飛ぶと言う。
 彩さんの場合はどうであろうか。
 初めて会った時は誰も信じられないような冷たい目をしていたが、俺が引越しの手伝いをきっかけに彩さんは笑うようになった。毎日、俺のために弁当を差し入れてくれるようになった。その彼女の気持ちを俺は……まるでわかっていなかった。
 鈍感でヘタレな男はよく女の子に監禁されると言うが、まさに自分がそのヘタレとは同じ人種だったとは。
「こんなのまるでストーカーみたいじゃないか」
「ストーカーってのは恋する乙女のことを言うんですよ」
「俺の写真とか無闇に張りすぎて何が面白いんだよ。てか、俺のプライバシーの無視ですか? オイ?」
「恋する女の子はいつだって大好きな人のことを知りたいと思うのは自然だと思いますけどね」
「知る権利の乱用に異を唱えるぜ」
「でも、忍さんを盗撮したり、盗聴器で盗み聞きする必要はもうないんです。だって、これからはずっと一緒なんだもん」
 そう。病んでしまった女の子からは逃れる術はない。
 抗うことは愚かなことであり、どのような手段を使ったとしても、ヤンデレ症候群に感染した彩さんに勝つことは不可能に近いのだ。
 読んでいる。
 ヤンデレ化した女の子の頭の回転の速さに驚かせる。俺が引っ越しセンターで引っ越しの依頼をしたので、すでに荷物は指定した場所に運ばれている手筈だろう。だけど、俺は彼らが来る前に彩さんの謀略により気絶させられている。その間に彼らと彩さんが接触して、引っ越しする荷物を廃棄している可能性がある。予定通りに仕事に来なかった俺を、今頃の若いもんはすぐにバックレするからなぁ程度で済まされていることであろう。そうなると俺の行く先は誰も知らず、両親や知人や友人がいないので誰も俺を行く先を探す人間はいない。
 誰かが気付いたとしても、俺はその時は行方不明者扱いになっているだろう。7年後には法律的に死亡者扱いにすることもできる。
 彩さんは誰も俺を探すことができない状況を作り出して、この場所で監禁してイチャイチャな生活を送ることが目的だったのだ。
「そういうことで朝ごはんを食べたら、監禁生活におけるルールとか決めましょうね」
 と、彩さんが天使のような微笑みを浮かべた。その笑みを見るだけで俺はこの異常な状況すらも容認できてしまいそうだ。そう、この少女の笑顔にとことん弱いのだ。

 鉄格子のドアを開けた場所から彩さんは美味しいそうな匂いがする朝食を持ってきた。この繋げ合わせた部屋では調理をするためのキッチンが見当たらないので食事を作る時は基本的に上の方で作っているようだ。
 彼女が心を込めて作ったであろう朝食を簡易テーブルの上に置いた。箸を持って、二人とも行儀よく食事の挨拶をする。
「いただきます」
「いただきます」
 独り暮らしの時には全く感じることができなかった温かさを、彩さんが作ってくれた料理には感じ取れた。美味を通り過ぎた味は時間を体感させることなく、気が付けば皿の中身は綺麗さっぱりと消えていた。
「そ、その。私が作った料理はどうでしたか?」
「どうもこうもないよ。とっても美味しかったよ」
「うにゃ。ありがとう」
 病んだ彩さんが嬉しそうに頬を染めて弾んだ声で言う。普段から差し入れしている料理よりも味は格段に上手い。だが、何よりも違うのは一人で食べたのではなくて、二人で一緒に仲良く食べたことではないだろうか。寂しいという気持ちを抱くことはなく、心の安らぎを得ていたからだ。
 それゆえに彩さんの謀略には気を気をつけねばならない。何気ない天使の顔をしていても、中身は狼だって裸足で逃げ出す悪魔なのだから。
「で、これからの生活方針について話し合いましょうね」
 監禁された俺に対する今後の扱い方など彩さんは熱心に説明するが、俺の頭の中ではこの監禁生活から抜け出す方法を考えていた。

 一人の男が狼のような叫びを上げていた。拘束された女性は彼を汚物のような視線でずっと見ていた。彼に変な薬で眠らされた時から幾つの時間で流れたのか定かではない。ただ、わかっているのは自分を襲おうとする男はこの世で最も殺してやりたいランキングで常にトップを取っているぐらいに嫌悪している男だ。
 名は、扇誠と言う。
 とあるケーキ店の店長をやっているが、その実体は自分とこの従業員やお客の女性達を手篭めにしてきた最悪な性癖の持ち主だ。その最低な男にこうして拘束されているということはその被害に遭った女性達と同じ道を歩むことになるのであろう。
 女の子は大好きな人に自分の初めてを貰うことに固執する。それが人生で生涯で唯一で後戻りができない大切な物だからこそ。最初は愛しい彼に捧げたいと思うのだ。どこぞの最低最悪な男に奪われていいものではない。
 しかし、現実はそう甘くない。
「さあ、始めるぜ!!!!」
 扇誠は上半身を裸にして、たゆんでいる脂肪の腹を露出する。視認するだけで吐き気をしてしまうような肉体に、魂の奥底から彼女は拒絶する。
「いいぜ。そういう嫌がる女を暴力で支配するからこそやめられねぇんだよな。まあ、あの周防忍にはてめえが俺様にしっかりとヤラれている画像を送りつけてやるから。うふはははは」
「い、いやぁ。やめてぇぇぇぇ!!!!」
 扇誠が彼女を襲おうと服に手をかけた時であった。
 部屋にはおぞましい程の殺気に支配され、そこにはいなかった人物の姿がいた。
 老婆。
 介護の世話になってもおかしくない高年齢の女性が不気味に笑っていた。
 突然の来訪者に扇誠は行為を途中で中断し、不法侵入してきた相手に驚きながら訪ねた。
「てめえ、誰だ!!」
「ババア」
スポンサーサイト

この記事に対するコメント


この記事に対するコメントの投稿

















この記事に対するトラックバック

トラックバックURL
→http://kuronekoyasou.blog110.fc2.com/tb.php/176-00521d1e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
FC2カウンター

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

プロフィール

トライデント

Author:トライデント
嫉妬スレSSで投稿した小説を公開しています。
完結した作品
煌く空、想いの果て
雪桜の舞う時に
水澄の蒼い空
幽霊の日々
バレンタインデーSS
連載中
桜荘にようこそ

リンクフリーです。
相互リンク大歓迎です。

カテゴリー
ランキング

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説へ

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック

月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索

RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。