黒猫の夜想曲

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お隣の彩さん 第8話『謀略』



第8話『謀略』
不思議とバイトしている時間は胃が痛くなってしまうことが日常茶飯事化してきたと思う。店長が店にやってくるお客様の女の子まで無意味にナンパとかしたりすると俺ら店員は黙って見過ごすしか方法はなかった。例え、休憩室に連れ込まれたとしても俺達は知らないふりをして、何事もなかったかのように仕事に没頭する。扇誠に逆らう人間は彼の権力で上層部にグータラな人間と勤務評価が改竄される。扇誠が店員の解雇要請をすると何だかよくわからないがその店員はすぐにクビとなるのだ。
 だから、誰も扇誠に逆らうことができずに大人しく仕事するしかない。正直にあの最低な男の顔色を伺いながら仕事するのは吐き気する日々であったが。この最近は、楽しみというものができた。
「先輩!! 先輩!! 先輩!!」
 エプロンドレスに白いフリルが付いている衣装を身に纏った相沢さんが嬉しそうにこっちへやってきた。
「今日はもうすぐで仕事終わりなんですよね? 一緒に帰りましょうよ」
「うん。帰ろうか」
「今日も先輩の家で瑞葵の手料理をたっぷりとご馳走します!!」
 相沢さんとは、とある理由で一緒に帰ったり、夕食を作ってもらったりしている。それがこの店で働く唯一の楽しみと言っていいだろう。
 肝心なストーカーが俺と相沢さんの一緒に帰る姿を見せ付けるだけで勝手に嫉妬して、ストーカーの対象を彼女から俺に変える必要がある。まあ、完全な逆恨みで襲われるかもしれないが、男のストーカーなんてたかだか知れている。金属バットで足元をホームランで打ちまくる強打者のように振るだけでどうにかなると思っている。
 しかし、治安が悪化した世の中で一番恐れられているのは泣く子も黙るヤンデレ症候群に感染した病んでしまった女の子達だ。彼女たちの執念深さは異常だ。
 一度恋心を抱いた異性には地の果てまで追い詰めて、恋人同士の関係を強要し、自分の思い通りにならないと監禁する。そこで自分のことしか考えられないように徹底的に調教と洗脳をする。下手な宗教よりもマインドコントロールされた男の行く先は病んでしまった女の子と結婚するだけだ。
 そんなもんに比べたら、男のストーカーなんぞ。その場で転がっている小石同然だ。見つけたら、蹴り飛ばせばいいのだから。
 ともあれ、ストーカー対策など考えずに俺はさっさと仕事を切り上げて相沢さんと一緒に帰宅するために急いだ。

 偽装の恋人を演じるためには俺と相沢さんは小学生の遠足のように仲良く手を握りながら帰路を歩いていく。旗から見ても二人は恋人同士に見えるはずである。そういう風に見えるための偽装してきたのだ。
 すでに陽は傾き、人通りが少ない時間帯になってきた。空間は夜という暗闇に支配されている。ストーカーが行動しやすい状況を作り出した。これで手を出してくれば、この件は簡単に解決するだろう。
 相沢さんは不安そうな表情を浮かべて、俺の手を強く握り締めていた。
「こうやっていると本気で恋人同士に見えますね」
「そうかな?」
「そうですよ。先輩。このまま、周囲に私たちが恋人同士で、すでに婚約もしていることを告知しておきましょ」
「いや、待て。婚約って」
「これはカモフラージュで、本当は市役所に婚姻届を提出してあります。まさに本当の夫婦になれば、ストーカーなんて虫の息寸前ですよ」
「俺の方が虫の息寸前だよ」
「あらあら。そんなことを言ったらダメですよ。ダ・ン・ナ・様」
女を殴りたいと思ったのは始めてだ。
 ただ、相沢さんのちょっときついジョークはいつものことでいちいち気にしていたら仕方ない。ともあれ、帰る前に打ち合わせしていた通りに人気のない場所へと俺達はいつもの会話をしながらストーカーを誘導しようとしていた。
 ただ、相手のストーカーが昨日今日で姿を現れたりするのかはわからない。俺と相沢さんがそういう仲だとストーカーが視認するだけで今は行動を起こさないかもしれない。俺という邪魔者を排除するならば、それなりの策を考えて安全に事を運ばせることの方がストーカーにとっては有利に働くはず。
 となると、ストーカーは周防忍に関する個人情報を集める。電話番号や住所などがあれば、いつでも俺を脅迫することは可能。容易に相沢さんと別れるように実力行使で手段を選ばずに俺の嫌がらせ行為など。最悪の場合は周防忍を殺害することまで考えられる。
 ゆえに。
 のこのこと俺の後を追いかけてくるストーカーを現行犯で逮捕するしか。俺達に勝機がないわけだが。
 相沢さんはいつまでも恋人同士に誤解されそうな話題で盛り上がっていた。もう少し気を遣って大人しくして欲しいもんである。
「先輩。来ましたよ」
「ん?」
「ストーカーと思われる私たちの後を追いかけてくる人物が300M以内にね」
「どうして、そんなことがわかるんだ?」
「女の子の勘です」
「勘? そんなもんでわかるはずが」
「女の子の勘を舐めたら駄目ですよ。恋人の浮気を、普段の言動や態度、持ち物から一瞬にして見抜くんだから」
「それはなんて恐ろしいって……そんなわけあるか!!」
「もう、先輩は愛しい女性の言葉を信じないんですか? 女の子の直感と勘だけは神をも軽く凌駕しますよ」
 神話世界に出てくる女性達は嫉妬深く、愛しい人を独占したいヤンデレの原型を司る女神ばかりだったような気がする。気が遠くなる昔の話でも女性というのは現代とはそうあんまり変わらずに退化はしていないが、進化もしていないように思える。
 いや、確かに進歩しているのだ。
 ヤンデレ症候群により、女性は愛ゆえに心を病み、その果てに凶行に走る。神を圧倒する戦闘力で愛しい人を捕獲して永遠に死ぬまで監禁する。尋常ではない行動力と悪魔のように狡猾な頭の回転の速さ。特殊部隊よりも優れた身体能力。あらゆる武具を使いこなす器用さに加えて、決して諦めない執念は異常を通り越して狂気の域に達している。
 現代に生きている女性はどこが病んでいるのだ。
 だって、女の子の勘だけで浮気とか見破れてたまりますかっての。
「凌駕される神にちょっと同情するけど。ストーカーが300M以内ってことはこっちに近づいているの?」
「そうでしょうね。300M以内に近づけば、私の恋する乙女の直感範囲内に入りますし、ちゃんと髪の毛の触覚が東経110度に反応しているわ」
「東経110度って。てか、何で髪の毛の触覚が反応するの?」
「お約束ですから!! ラノベでも何か女の子に特殊能力とかあったりする設定が多いじゃないですか。後は他人ではどうでもいい複雑な事情とか。それと同じことです。瑞希ちゃんはこう見えてもスキル多し」
「ラノベで説明されても、俺は戸惑うぞ。普段からそっち系は全く読んでない!!」
「それはいいんですが、そのストーカーさんは物凄い速さでこっちに近づいていますよ。オリンピック選手の目玉が飛び出すぐらいの速さで!!」
「なんだってっっ!!」
 余裕の表情を浮かべていた相沢さんが戸惑いと未知の恐怖に怯える表情に変わっていく。
300M以内にストーカーを認識してから、数分も経たない内に状況は変化していた。俺達は慌てるだけで何も出来ずにストーカーの接近を許していた。
 この暗き闇の中で俺と相沢の間を人影のような線が横切っていた。
 その線に反応すらできなかった俺の脳裏にあったのは。
 死。
 ただのストーカーではない。
 人を超越したストーカーならば、致命的な隙となり、その数秒単位で恋敵である俺を殺すことも可能だった。
 敵もまた遥か怪物。
 油断すらも許されない強敵に自分の敗北が絶対的だと悟る。常人であると自負している人間が敵う相手ではない。
 通り過ぎた方向から禍禍しい邪気が感じ取れていた。電灯もない世界を覆う深淵からでもはっきりとわかる事柄に俺は畏怖している。相沢さんの表情も凍り付いていた。
 ストーカーはゆっくりとした足音を響かせながらでこっちに近づいてくる。
「うにゃ、奇遇ですね。周防さん」
 ストーカーが通り過ぎた方向からやってきたのは、なんと彩さんであった。

 予想すらもしなかった人物の登場に俺は目を丸くして驚愕していた。数秒前はストーカーの脅威に恐れて体中に緊張が走っていたというのに。彩さんの天使のような微笑みを浮かべるだけでその場の雰囲気が一瞬にして変わった。
「あ、あなたがストーカーだったの? 桜井彩!!」
「ええっ? なんのことですか?」
「今、私たちの後を嫌らしく追いかけて忍者のような目に映らない速さで通り過ぎたでしょ!!」
「なにを言っているのかさっぱりとわかりませんね」
「嘘をつくんじゃありません。瑞希ちゃんの乙女の直感がそう告げているんです。ストーカーはお前だと!!」
「むむむっ、証拠もないのにストーカーを呼ばわりするなんて失礼にも程がありますよ!! 私は偶然そこで周防さんと出会ったんですからっっ!!」
 二人は互いに親の敵だと言わんばかりに睨み合い、このまま放っておけばストリートファイトを始めそうであった。実際に女性が殴りあうのは拳ではなくて、ビンタ。平手の
破壊力次第では相手の耳の鼓膜を破裂させることもあるので、相沢さんと彩さんも無益な争いに手を染めないで欲しい。
 女性同士の戦いに男の俺が口を出せば、二人の喧嘩と責任の全てが自分に被るので。大人しく静観していた方がこの場は正しいはず。
「証拠? そんなものは必要ないです。宇宙を支配した女の勘で私が直々に判決を申しましょうか? ストーカーは桜井彩で決まり。以上、異論は受け付けない!!」
「うにゃ……。そんな根拠のないことで決められたら、裁判員制度なんていりません!! 私は喜んで辞退します!!」
「残念ながらそうはいかないわ。瑞希ちゃんはさっきに先輩に断言しちゃったので、後に引けない」
「それはあなたが悪いんでしょうがぁぁぁっっっ!!」
 もはや、何かコントを見ているようだったが、あえて何も言わずに傍観しておこう。ってか、ちょっと関わりたくないし。
 その二人が無意味な論争をしている最中に何者かの気配がした。それは察知するには常人の俺でもたやすいぐらいのちっぽけな何かが。
 それを確認しようと、その方向を向くと何かのフラッシュのような眩しい光が何度も放たれた。
「これは?」
 先ほどの圧倒的なストーカーとは違い、矮小な威圧感が感じ取れた。そのフラッシュした方向に走り出すと、その何者かは慌てて逃げ出した。急いで逃げ去る姿を追いかけようと思ったが、相手はストーカー。俺が怯えたストーカーが相手だと返り討ちに遭うので、追うのは諦めるしかなかった。
 彩さんと相沢さんがいた場所に戻ると、二人は相打ちになったのか倒れていた。多分、クロスカウンターとかで互いの頬を拳で殴りあった結果、仲良くノックアウトしたに違いないだろう。
 仕方なく、俺は二人の意識が取り戻すまで辛抱強く待った。
 

 昨晩は結局何も手かがりを手に入れることはできなかった。
 バイト先にある自分のロッカーの前で制服に着替えながら、昨日に起きたことは客観的に振り返ってみた。
 意識を失った二人を発見してから。
 彩さんと相沢さんの二人を介抱して、大人しくその場は解散することになった。二人とも頬を真っ赤に腫れているので、俺は何とも言えずにただ帰ろうと告げるしかなかった。
 そのストーカーに俺の姿を見られた可能性もあるので、状況は相沢さんが思っている以上に悪くなっている。あの恐ろしいストーカーが俺を殺すための算段を現在考えているなら。それを逃れる手段は皆無に等しい。
 もうすぐ、バイトが始まる時間なので気分を切り換えて。今日の労働に集中する。
また、あのクソ店長のご機嫌を伺いながら、仕事をするのは胃が激しく痛くなることだろう。
 ホールの方に向かうと、クソ店長とこの時間帯にいるスタッフさん達が集まっていた。今日の事は特に連絡もなかったのでいつもの時間帯に来たわけだが。まさか、俺だけ知らされていなかったというのか?
 店長である扇誠は俺がこの場にいることを気付くと、嬉しそうな笑みを浮かべてこう言った。
「周防忍。てめえは今日限りでクビだ!!」
 
 それは見事なアルバイト切りだった。
 
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