黒猫の夜想曲

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お隣の彩さん 第5話『誤解と誤認』



「周防さん。どうぞ。今日は知り合いの猟師さんが日本海に行って、大マグロを猟銃で狩ってきたんですよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。漁師じゃなくて、猟師かよ」
「そうですよ。最近はイノシシさんもマスコットキャラクターに選ばれて大流行です。猟師さんもイノシシ狩りをすれば、どこぞの動物愛護団体がダイナマイトを体に巻きつけて特攻してくるので。そう簡単に山で狩りができなくなったそうです。」
「その動物愛護団体はテロリストだよ。絶対に」
「で、周防さんに大トロの美味しい部分を持ってきました。一緒に食べませんか?」
 彩さんは華麗に俺の会話をスルーされた。俺は仕方なく、テーブルの上に置かれた新鮮な大トロを見て、口から涎が出ていた。だって、美味しいそうだもん。
「いつも、すみません。毎日、差し入れして貰って。本当になんてお礼を言えばいいやら」
「そんなことを気にしないでくださいよ。周防さんが私を助けてくれなかったら、いつまでも引越し作業に没頭してたよ」
 それはねぇだろ。さすがに。
「わたしのほんのお礼の気持ちです。受け取ってくださいね」
「いや、さすがに2週間ずっと朝昼晩のおかずを差し入れしてもらったら。なんか悪いような気がする。何か軽くNice Boatのフラグが立ちそうなぐらいに!!」
「ううん。そんなことないですよ。猫だって、優しくしてもらったことは絶対に忘れませんし、一度受けた恩は周防さんが死ぬ前で永遠にかえしていこうと思ってますから」
「永遠って……」
「さあ、脂が乗ったところが美味しいんですから。細かいことは気にせず食べましょう」
「わかった。桜井さんがそこまで言うならば、その大トロは手巻き寿司にして食べよう」
「うにゃ!!」

 すでに空き部屋であった隣の部屋に彩さんが引っ越してきてから2週間の月日が経っていた。あの日、引っ越してきた次の日からこうやって彩さんにおかずなどを差し入れをしてもらっている。女の子が作ってくれた手作りの料理に感激していた。彩さんを助けた時以上のことをもうすでにしてもらっている。ロクに家事ができない俺は毎食コンビニ弁当やフライものを飽きるぐらいの食べる生活を送っていたので、彩さんの差し入れはまさに救いだった。
 そんな彼女に俺は感謝を込めてある提案をしてみた。引き受けるかどうかは知らんけど。

 その夕食は彩さんが作ってくれた大トロのフルコースをご馳走になった。結局、手巻き寿司にせずに彩さんに全てお任せにした。彼女の料理の腕は半端ではなかった。いつも差し入れする料理とは違い、今回は材料が一級品であり、普通のおかずとは味が断然に違っていた。よくテレビとかに出てくる有名料理店のメニューの品々がテーブルに運ばれる時は目を丸くして驚いた。俺は彩さんが作ってくれた料理を絶賛しながら、二人で仲良く分け合って食べた。
 彩さんが後片付けのために食器を洗っている最中であった。
「あ、あの桜井さん。ちょっといいかな?」
「もう少し待ってくれませんか? 今日、食べ終わった食器を洗い終えますから」
「客人なんだから。後片付けは俺がやるよ」
「そんなのダメです。料理と言うのは材料を切り刻んで、調理して、食べてから、後片付けまでの作業のことを言うのよ。周防さんはそこに座ってのんびりとテレビで見ていてください。後でお茶を入れますから」
「いや、大切な話なんだ」
「た、た、大切な話ですか……」
 一瞬だけで硬直していた彩さんが洗い流している水道の水を止めて、後ろを振り返って、こっちにやってきた。ピンク色のフリルの付いたエプロンを脱いで、空いているちゃぶ台の席に着いた。
「なんでしょうか?」
「明日、俺とデートをしてください!!」
「で、で、で、で、デートですかっっっっ!!!!!」
「もしかして、俺とどこかに行くのはそんなに嫌だったとか?」
「そ、そ、そ、そんなことはないです。ありえません。でも、どうして、私なんかをデートに誘おうと思ったんですか?」
「桜井さんが引っ越してきた日から俺に色々とおかずとか差し入れしてもらっているから。感謝の形を込めて、デートに誘おうと思ったんだけど」
「周防さん!!」
「は、は、はい」
「無闇に女の子にデートをするって言ったらダメですよ。その、ちょっと勘違いしちゃうじゃないですか」
 勘違い!?
 彩さんは白い肌が真っ赤に染まっていた。俺と視線を合わせないように彼女はそっぽを向いていた。
「本気にしちゃいますよ」
 本気って……。
 デートに誘うこと=告白して付き合いましたってレベルを軽く通り越したことになっている。恐らく、誤解している。彩さんの誤解とは俺が彼女に求婚を申し込んでいることになっているのではないか? 待て。そういうつもりで誘ったわけではないし。今は恋愛事は曖昧にしておきたい。
「その、とりあえず、デートしてくれるんだよな?」
「はい。こんな私を誘ってくれるのでしたら。1億回ぐらい周防さんとデートしてもいいです」
「だったら、明日とか暇?」
「その日なら私は暇ですから。というか、周防さんとデートするためなら、アルバイト先に退職届けを叩きつける覚悟です!!」
「辞めなくていいから!! じゃあ、10時頃に彩さんを迎えにいくよ」
「はい。待ってますから。ずっと、待っています」
 こうして、俺は彩さんとデートすることになった。

 自分の家に戻ってから。
「うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 私の部屋に喜びの奇声が響き渡っていた。
「忍さんと忍さんと忍さんと忍さんとデートだよーーーーーーーーーー!!!!!!」
 今までの私の愛情を篭った料理の差し入れ効果がついに実ったのだ。
「忍さんが忍さんが私をデートに誘ってくれたよ」
 これ以上に嬉しいことがこの世に存在していいんだろうか。でも、デートのことを考えるだけで私の頬はにやりと笑みを浮かべてしまいます。
「やった。やったやったやった。やったよーーーーーーー!! 彩よ。男の子と初デートだよ。この偉業は歴史の教科書に残る。よくやったぞ!!」
 恐らく、血塗れでドロドロした戦国時代を勝ち抜いて、日本を統一しちゃう程の偉業に匹敵するでしょうね。
 とはいえ。
 明日のデートは忍さんを私の大人の魅力で落とすという大切な日だ。作戦行動はよく考えなくてはダメですね。ちょっと、露出度が高い服を着て行って、忍さんを誘惑するとかはどうでしょうか? 男の人は見えそうで見えない方がいいと聞きますし。
 うーむ。
 どうしましょう。
「忍さんの好みがわかりません」
 そもそも、男の人とは喋ったり、一緒に遊んだりとした経験は全くないですよ。生まれて初めてのデートなんですから。
 この年齢で初デートというのは少し遅れているように思えますが。
 いいでしょう。
 私の手料理とこの前のバーゲンで買った新しい服で忍さんを悩殺することにしましょう。
 そう決意するとモニター越しの忍さんにキスをして、さっさとお布団の中に入り込んだ。
 明日は3時に起きて、いろいろと準備しなくちゃ……。


 普段、料理の差し入れをしてもらっている彩さんの感謝を込めてデートに誘ってみた。最初は映画館で眠たくなりそうな恋愛中心の洋画を見た後、お昼は彩さんが作ってくれた特製のお弁当(中身はいつもより豪華)をご馳走になった。そのまま、商店街でショッピングを楽しみ、模範的なデートコースを問題もなく忠実に実行していった。空が夕焼けに染まる頃には俺と彩さんが満足にデートを楽しんでいたはずだった。
 イレギュラーさえ起きなければ。
「あれ。先輩じゃないですか!!」
 と、子犬のような人懐っこい明るい声が聞こえてきた。その声は毎日職場で嫌になるほど聞いている。
「瑞葵ちゃんは見てしまいました。ちょっとクールで一人狼を気取っている先輩が、あろうことにお、お、お、女の子とデートしているじゃないですか!!」
「相沢さん?」
「はーい。先輩が現在進行中で最も気になる異性No.1の瑞葵ちゃんですよ!!」
 バイト先の後輩である相沢瑞葵が興味深そうな目でこっちを見ていた。手には隣にあるCDショップの紙袋を持っていたので、この辺で買い物を楽しんでいたのだろうか。
「ええっ!? 異性No.1って」
「桜井さん。違います。相沢さんはただのバイト仲間なんです!!」
「ふっ。また一人の男性のココロを惑わせてしまった、罪作りなボク」
「う、うにゃ!! や、や、や、やっぱりそういう仲だったんですか!!」
「落ち着いてください。全部、相沢さんのホラですから。信じたら駄目だ」
 酷く憔悴しきった彩さんがその場に座り込み、地面にのの字を書いていた。後輩の瑞葵は何故か勝ち誇った表情を浮かべて、俺の腕を組んでいた。いつの間に?
「今日は一人で暇だったんですよ。最近、売れ行きの悪い邦楽の売り上げに貢献するために10枚もシングルCDとか買いました。先輩も寂しげな青ウサギに博愛の手を」
「誰が青ウサギだ。黒ウサギの間違いでは?」
「うふふ。私はそんなに腹黒い女の子じゃあありません。世界の悪を一人で背負い込み、瑞葵レクイエムを実行するぐらいの清純派妹キャラなのですよ!!」
「あんた、一人っ子じゃあなかったんですか!?」
「世間は何かと毒入りにやかましい」
「食べても膨大な賠償金請求できないからな!!」
 と、瑞葵の天然ボケを俺がまともなツッコミで返していた。その光景を傍から見れば仲の良いカップルに見えたかもしれない。特に彩さんが座りながらちらりと俺達を羨ましそうに見ていた。
「あの、周防さん。こちらの方は?」
「俺のバイト先の後輩の、『相沢瑞葵』というナマモノ」
「ナマモノなんて失礼ですね。私は相沢瑞葵という薄幸な一般市民です」
「一般市民というよりはトラブルメーカーなんだけど」
「で、先輩。そちらの人は先輩の彼女さんですか?」
「いいや、違う。この人は桜井彩さん。俺が住んでいるアパートの隣に住んでいる人なんだ。今日はいつもお世話になっている桜井さんにお礼の意味を込めてデートしているんだ」
 それ以上の深い意味はない。逆に俺が彼氏だと勘違いされる方が彩さんにとっては迷惑な話であろう。
「うぐぅ。隣に住んでいる人……隣に住んでいる人」
 同じ言葉を何度も彩さんは小声で繰り返していた。偶然に聞こえてしまったけど、聞かなかったことにしよう。
「じゃあ、私はお馬さんに蹴られたくないのでとっと退散しますね。後は二人で仲良く赤ちゃんが妊娠するトコまでいっちゃってください」
「あのな。俺と桜井さんはそういう仲じゃあないっての」
「あははは。では失礼しますね」
 相沢さんが去ってゆく姿を見届けると俺は思わず嘆息した。あいつの相手は疲れる。どこまで本気かわからないから、何を信じていいのかさっぱりとわからん。
 台風が過ぎ去った後に俺は未だに座り込んでいる彩さんに手を差し出した。
「ありがとうございます」
 その言葉に先ほどの覇気はなかった。彩さんは少し落ち込んだ表情を浮かべ、自嘲的な笑みを浮かべて言った。
「相沢さんって子に変な誤解とかさせちゃってごめんなさい」
「へぇ?」
「周防さんはあの子のことが好き……なんでしょう?」
「ううん。違うってば。あいつとはただのバイト先の先輩と後輩の関係なんだから」
「本当に?」
「本当だ」
 彩さんにだけは嘘は吐かない(多分)
「良かった」
 はい?
 良かったとはどういう意味なんだろうか。彩さんは俺の手をしっかりと握ってから立ち上がって、そのまま離そうともせずに前へ歩きだした。
 手を繋いだ二人はまるで初々しい恋人同士のように街を歩いた。
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