黒猫の夜想曲

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桜荘にようこそ 第34話『告白』


 今回、仕組んだ偽装結婚や桜荘の真相を全て話終えると喉が酷く乾いていた。ずっと喋り続けたせいか、Gウィルス入りの清涼飲料水が飲みたいとこだが。今は我慢さ。
 全て、狂言芝居だったことを聞かされた更紗と刹那はその場で立ち尽くしていた。それはそうだろう。俺は朝倉京子と結婚していたわけではないのに、二人の暴走で監禁という犯罪行為までやってしまい、挙げ句の果てには自分達好みの恥ずかしい調教をやってきたのだ。ショックを受けない方がおかしい。
「カズちゃん……」
「ん?」
「頑張って調教したのに。洗脳されていないなんて。そんなのおかしいよ!!」
「おかしいと言われてもな」
 今まで調教行為を思い出すだけで顔を真っ赤に染めてしまいそうだ。幼馴染以上恋人未満の初々しいやり取りが行なわれていたとしか言えない。言葉にするだけで恥ずかしいわ。
「カズ君は私たちを騙していたのはとやかく言うつもりはありません。でも、いい加減に私たちから逃げないでください」
「痛い所を突くな。刹那」
「はい。ガン○ムマイスターですから」
 違う。それは果てしなく違うから。
「そうだよ。私たちはカズちゃんが好きなの。ずっと、好きだったんだよ。出会った頃から想っていたんだよ。あなたのことを」
「俺にはそんな資格がないんだよ」
 更紗、刹那が一瞬だけ怯える表情を浮かべていた。無理もない話だ。俺が二人の想いを拒否すること自体がすでにトラウマになっているのだから。
「更紗と刹那の告白を断ったのは……二人の内、どちらか一人を選ぶなんて無理だったから。仮に片方を付き合ったら、もう片方はどうなる? 俺が傍にいないと笑えない女の子を突き放すことなんてできなかった」
 学生時代の俺はまだ世間を知らなかった。ただ、二人の告白さえ断ってしまえば、元通りの幼馴染の関係に戻れると信じていた。だけど、告白した側の気持ちなんて微塵も考えていなかった。恋心を持つ少女が想い人から告白を断れるってことがどれだけ絶望するなんて、鈍感だった俺が気付けたはずがない。
「それでも、悲しんでいる更紗と刹那の顔を見たくなくて避け続けたんだ。逃げた俺はこんな故郷から遠い地まで逃げてきた。そんな人間が更紗と刹那に相応しい男だと思うか? あの時のことをずっと後悔していた。
 どうして、逃げたんだろうって。
 告白を断っても、二人を傷つけない方法があったんじゃないのかって
 今でも悪夢になって見るんだよ」
 悪夢の始まりは俺の弱さのせいだった。でも、今は。
「カズちゃんが私たちの一方的な想いのせいで苦しんでいるなんて知らなかった」
「それは俺の身勝手な我侭みたいなもんだ。更紗が気にする必要はないよ。それに今は更紗と刹那には俺よりも相応しい男を見つけられるよな?」
 更紗と刹那にずっと恐くて聞けなかったことがある。
 あの飲み会の時に見捨てしまった後、二人は他の男と……恋人関係になっているかもしれない疑念があった。俺以外に体を捧げる二人の姿を想像するだけで胸を引き裂かれる痛みに襲われる。そして、他の男に抱かれたことがあるという嘘を言われても、それを嘘だと思えなかった。
 本当なのかもしれない。
 もし、そうなると無職である俺が叶う相手じゃあない。二人を幸せにすることができる人間と、二人を傷つけて悲しませた人間だと最後に選ばれるのは前者の方であろう。抵抗することなく、二人の幸せのために俺は諦めよう。
「カズ君? 何を言っているんですか?」
「ほらっ。前に言っていたじゃないか。男に抱かれたことがあるって」
「そ、それは……嘘です。カズ君にヤキモチを焼いて欲しかったために皆で考えた嘘です。そんなのを本気にしないでください。でも、抱かれたのは事実です」
「それじゃあ……。1年前のクラス皆で開いた時の飲み会の時。女グセが悪くて有名なイケメンを気取っていた奴らに絡まれていただろ? 俺は助けを求められているのに見捨ててしまったんだよ。そして、酒で酔い潰した二人をホテルに連れ込んで……」
「カズちゃんは一体何を言っているのかさっぱりとわからないんだけど。飲み会の時はちゃんとカズちゃんが助けてくれんだよ」
「はい?」
 あれ? 俺はあの時の記憶が曖昧で覚えていない。気が付いたら、裸で自分の部屋で寝ていたことぐらいしか記憶にはなかった。
「酔っ払ったカズちゃんが『俺の更紗と刹那に手を出すなっ!!』ってブチ切れて、あいつらを追い払ったんだよ。凄い剣幕だったから、誰も何も言えなかったの」
「それで私たちと飲んでいましたが、カズ君が一人で帰れないぐらいに酔っていたから。カズ君の肩を更紗ちゃんと一緒に借りながら、家まで運んだです」
「家に帰ってきたら、私たちに抱きついたカズちゃんが『更紗と刹那のことが大好きなんだよ。でも、二人の内、片方をどうしても選べない。でも、好き』って言ってくれたんだよ。私たち、嬉しすぎて泣いちゃったもん」
 …………。
 ……。
 なんですと?
「私たちもカズ君が更紗ちゃんと私のことが好きならいいよって、了承しちゃったから。その。えっとですね。何だかいい雰囲気になってしまったので。その。
 Hしちゃいましたぁ!!」
「あの夜のカズちゃんは私たち一晩も寝かせてくれなかったもん。おかげでとても気持ち良かったよ」
「その話は本当なのか?」
「嘘は絶対に言いませんよ。桜荘に来てから、カズ君があの晩の記憶がなかった事はなんとなくわかってたし。また、カズ君の方から告白されるのもいいかなぁと思って、今まで放置していたんですけど……」
 全ては俺の誤解だったわけか。
 どうりで目覚めた時は裸だったんだな。
 謎はすべて解けた。
 というか、1話から34話まで何をやっていたんだ? 俺らは。
「すまない。今までずっと気に病んでいたんだ。更紗と刹那を見捨てた男が二人に相応しい男だって……。でも、違ったんだな。本当に些細な誤解のために今まで大切な時間を無駄にしていたんだな」
 大馬鹿野郎だ。俺は。
「そんなことはもういいんだよ。カズちゃんが傍に居てくれる。それだけで私たちは満足なんだから」
「そうですよ。カズ君。もう、自分を責めないでください」
 と、更紗と刹那が優しく声をかけてくれる。今まで欠けていた心の片隅が二人の温かさで埋められる。誤解が解け、3人の間に1年前の壁が砕かれていた。
 だから、言おう。
 1年前に言えなかった、この想いを。
「更紗と刹那のことが小さな頃から大好きだったんだよ」
 言えた。
 ようやく、想いを伝えることができた。
「あ、あ、あの私もカズちゃんのことが好き。大好きなのっっ!!」
「ぐすっ……。カズ君。ありがとう。愛しています。あなたのことを」
「俺もお前たちが好きだと思っている以上に好きなんだよっっ!!」
 更紗と刹那は頬から零れるように涙を流していた。それも同様に俺も何故か涙が止まらなかった。ずっと、抱えていた想いを告げたのだから。嬉し泣きなんだろうな。
「わ、わ、私はね。自分の身勝手に告白したせいでこんなことになったことを後悔していたの。せ、刹那ちゃんが、刹那ちゃんが、わ、私よりも何でも上手にできる子だったから。劣等感を感じていたの」
「更紗?」
「カズちゃんにも、刹那ちゃんにも聞いて欲しい」
 突如、更紗は胸元に懺悔するかのように手と手を合わせていた。まるで今までの溜まっていた事を暴露するような真剣な眼差しで俺と刹那を見つめていた。
「嫉妬していたと言ってもいい。最初はただの小さな胸の痛みだったのが、カズちゃんと刹那ちゃんが一緒に笑っているだけでその痛みが大きく疼くようになったの。だから、刹那ちゃんの約束を破って、カズちゃんに告白したんだよ」
「もう、その話はいいだろ。やっと、お互いの気持ちを確かめあったのに」
「カズ君」
 と、刹那が見た目が小柄の体格なのに、一人の男を抑えることができる尋常ではない力で俺の腕を握っていた。少し痛みを感じて小さな悲鳴をあげる。刹那の顔を見上げると今まで見たことがない彼女の迫力に圧されていた。
「お願いだから、最後まで聞いてあげてください」
 それは頼みごとはなく、嘆願であった。
 更紗は刹那に優しく微笑んでから自虐的な話を続ける。
「告白したの。大事な親友を裏切ってまでね。刹那ちゃんを裏切ってまで得ようとした代償は孤独だった。私は口ベタで空気も読めない女の子だったから、昔から友達もいなかった。私のようなダメな女の子と仲良くしてくれる刹那ちゃんだけだったのに」
 大事な親友である刹那を裏切った事実を着々と更紗は語っていた。たまに辛そうな表情を浮かべながら、俺達に自分の気持ちを吐露していく。
「この1年間は天罰だと思っていた。親友を裏切ったせいで、カズちゃんに嫌われて。刹那ちゃんとは会うこともできなくて……。ずっと、独りぼっちだったんだよ」
 更紗は昔から極端に孤独になることを恐れていた。家の事情で娘や息子の心配しない放任教育を推奨している親たちのせいで、俺と知り合う前から独りぼっちになることが多かったと前に聞いたことがある。そう、俺がいない1年間は更紗が怯えていた孤独という暗闇の中にいた。
「絶望していたの。何もかも嫌になって投げ出したかった。手首を切ろうと何度も思ったけれど」
 長い髪を纏めている大きな黄色のリボンを外して、大事にリボンを更紗は抱き締めた。「カズちゃんと更紗ちゃんが誕生日にプレゼントしてくれた黄色のリボン。二人がくれた黄色のリボンを見る度に一人じゃないって思えてくるの。その時から、私はずっと恋をしていたかもしれないね。カズちゃんに。刹那ちゃんに。
 こんな、私でも好きでいてくれますか? 私は大好きだよ。二人のことが!!」
 白鳥更紗一世一代の告白である。
 好きと言うのは勇気のいることだが、好きだと言ってもらえると心がとても温かくなって気持ちのいいことだ。
「俺は好きだぞ。更紗のことを愛しているんだよ」
「私も更紗ちゃんのことが好きです。ずっと、一緒に居たいと思っています」
「ありがとう。カズちゃん。刹那ちゃん」
 目を真っ赤にしていた涙を零している更紗が俺と刹那の手を握っていた。
「今度は私の番ですね」
 と、刹那がくるりと一回転廻って、俺達の方を向く。
 長い髪を二つに分けた揺らしながら、恥ずかしがり屋の刹那が口を開いた。
「カズ君が私たちに告白する時に更紗ちゃんと決めていたんです。自分たちの膿は全て吐き出そうって。これからのラブラブイチャイチャライフを気持ち良く過ごすために」
 女って……。人生計画を練るのが上手すぎる。すでにそこまで考えるか?
「ずっと、約束を信じていたの。昔、3人で一緒に約束したんです。覚えていますか? カズ君と更紗ちゃんがかくれんぼの鬼をやっていた私が二人を見付けられずに泣いちゃった時がありました。その時に二人が私を慰めるためにカズ君と更紗ちゃんと私の3人で結婚しようねって、ゆびきりしてくれました」
 小さな子供の頃の約束は大人になった今だとそんな約束をしたったけと聞き返すと刹那が悲しんでしまうので言えないが。その約束は……記憶の片隅に眠っていた。
「七夕のお願い事にも3人一緒に書きました。その願いが単純に叶うことを信じていた私は……成長するにつれて不安になりました。カズ君も更紗ちゃんもこんな子供じみた約束を憶えているのかな? 将来は一緒に居られるのかなって。そんな時に私が大学合格を決めた日に、更紗ちゃんはお互いで決めた約束を破って、カズ君に告白しました」
 一生忘れることもない、更紗が俺に告白した日。刹那も一緒に告白したが、3人にとってはあの日は思い出したくもない別れの日だ。更紗は少し表情を硬くしていたが、握られていた手は震えずに俺の手をしっかりと掴む。
 刹那は前を向いて、言葉を紡ぐ。
「最初は更紗ちゃんに裏切られたよりも、嫌われているのかなってことにショックを受けました。だって、更紗ちゃんは私にとって大事な親友だもん。カズ君にも拒絶されて、本当に絶望のドン底にいました」

「二人が私の傍からいなくなったことが原因でしょうか。私に原因不明な胸の発作が起きたんです。医者の診断によると精神的な痛みから来る病だそうです。発作が起きて、胸が苦しくなる度に私は助けを求めていました。治る見込みがない病を抱えて、私は暗闇の中を一人で彷徨いました。死ぬことだって覚悟していたけど……。
 約束が私を支えてくれたんです。
 カズ君が。
 更紗ちゃんが。
 3人で結婚しようねっていう約束のおかげで私は生きる希望を諦めませんでした。
 この夢を果たすまでは…死んでやるもんかって」
 俺の知らなかった刹那の1年間は予想以上に苛酷なものだったと想像できる。精神的な痛みと言うのは、俺達が決別したあの日のことがきっかけに起きたのであろう。弱々しい彼女は小さな頃に結んだ約束を支えにして、ここまで頑張ってきたのだ。
「わ、私は……人見知りが激しくて臆病で寂しがり屋です。よく知らない人の前ではカズ君の後ろに隠れたりもしました。更紗ちゃんにもいろいろと迷惑をかけました。
 こんな、わけのわからない病気を持っている私を好きでいてくれますか?
 私は愛しているんです。
 カズ君のことを。
 更紗ちゃんも」
「私も刹那ちゃんのことは大好きだよ。刹那ちゃんの病気だって……元は言えば、私のせいだもん。私は頑張って刹那ちゃんを支えるから!!」
「ありがとう。更紗ちゃん」
 更紗は切なさのあまりに刹那を抱き締めていた。お互い泣きながら、これまで遭った確執を投げ捨てるように愛しく抱擁を続いていた。
 俺は。
 自分の気持ちを正直に伝える。
「俺は刹那のことを愛している。病気のこともちゃんと受け止めてやる。刹那と更紗と、俺で3人仲良く生きていこう」
「うんっ!!」
 ようやく、俺達は幼馴染から恋人同士の階段を登ることができた。誰よりも望んでいたことが実現した瞬間に。俺と更紗と刹那の絶望は解放された。
 そして、希望を掴んだのであった。
 抱き締め合っていた二人が俺の方に寄ってきて、今度は俺の腕を左右に抱き締めて。
 更紗と刹那は頬を染めて、言った。
「カズちゃん。もう一日ぐらい監禁生活を続けてもいいよね?」
「そ、その、恋人同士になってやることはもう決まっています」
 俺は二人が何を言おうとしているのか、その意味をちゃんと理解して。
 首を縦に振った。
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この記事に対するコメント


拝読させて頂きました。
あとすこしですね。
完結まで突っ走って下さい!応援してます!
そしてGJ!!
【2009/02/11 20:35】 URL | ピグマリオン #- [ 編集]


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