黒猫の夜想曲

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桜荘にようこそ 第32話『昔の光景』


★桜荘の住人達は何故か修羅場っていた。
 戦場は用意されていた。深山一樹が監禁された事が桜荘の住人にとっては作戦開始の合図であり、高倉奈津子、高倉美耶子、安曇真穂、御堂雪菜の4名が全力で取りかからないと達成不可能な作戦であった。
 憩いの場という桜荘の住人が飯を食べたり、つまらない会話をしたり、皆でTVを見て騒いだりする、娯楽的な役割を担っているが、現在、ただの修羅場になっていた。
 皆が食事をするテーブルの上にはPC4台が置かれてあり、住人全員はディスプレイの画面に没頭していた。
 上座の席に座っている奈津子は住人たちに喝を入れるために叫んだ。
「修羅場漫画大賞に応募するためには40P以上の原稿が必要。内容は必ず男女の修羅場が描かれていること。大賞を受賞すると賞金は100万円よ。更にドラマ化まで約束されているわ。今こそ、桜荘の皆の力を集結させて、漫画を描くのよ!!」
「漫画なんて描いたことなんてありませんよ」
「大丈夫。素人が描いたような絵が週刊誌とかで連載される世の中なのよ。絵の上手い下手はともかく、ネタさえ良ければそれでいいのよ。そういうわけだから、泣き言を言わずに真穂ちゃんは奴隷のように死ぬ気で頑張りなさいっ!!」
「えぐぅっぅ……」
 パソコンの操作に慣れていない真穂は涙目になりながら、初心者ガイドブックを見ながら、ディスプレイの画面と対戦していた。
「お兄ちゃんは今頃、更紗さんと刹那さんに監禁されているんだろうね。3人でイチャイチャしてそう」
 器用にPCを使いこなしている雪菜がぼそりと呟いた。学生時代に何度もPCに関する授業を受けているので、ある程度の機能はヘルプを読むだけで大体使えてしまう。
「ヘタレ一樹さんは天国のような場所でヌクヌクしているのに。私たちは修羅場ですか? 優柔不断の一樹さんを騙すために、更紗さんと刹那さんに他の男が居るように見せ掛けて、心理的に追い詰める。一樹さんの本音を晒しだすことが私の策だったのに。お姉ちゃんが邪魔さえしなければ上手くいったのに!!」
 美耶子はひきこもり時代のスキルを生かして、漫画に登場する人物を次々と描いてゆく。上手いとは言えないが、それなりに平凡な腕前の実力を持っているようだ。
「美耶子の策ではこの修羅場漫画のネタには使えない。男女カップルが仲良く付き合いましたじゃあ、駄目なのよ。もっと、斬新ネタで読者がおおっと驚くような展開を連発しないと誰も読んでくれないし。修羅場漫画大賞を勝ち取ることすら難しいわ。幼馴染の男の子を大切に想っている女の子達がその想いの果てに監禁までして、愛を訴えることこそがウケるはずなのよ!!」
「やっ。お姉ちゃん。一人で勝手に世界の中心で愛を叫んでください」
 と、賞金目当てで今回の修羅場に参加している美耶子は嘆息を吐いて、目の前の作業に没頭していた。
★現在進行中で監禁されている男、深山一樹。
 俺は二人の相手をするのに充分疲れていた。
 調教という名の言葉を借りた、バカップルのような二人の初々しい頬を染めた顔を見る度に心が何度も揺らぎそうになった。嫌いと答えれば、深く甘いキスをして、好きだと答えれば、更紗と刹那は何時間も抱擁してくるのだ。特に腕だけ固定されているためか、腕が痺れているので触られるのも痛い。
「もう、夜か」
 今日の昼辺りに更紗による改造スタンガンで気絶させられ、二人による調教行為を受けてから数時間も経っている。すでに胃袋の中身はすっかりと空になって、食料が欲しいと体は訴えているが監禁されて動けない自分は大人しく……二人の作った料理を食べなきゃいけないらしい。
「カズ君。お腹を空いたよね? 私が食べさせてあげる。
 は~い。あ~ん」
 刹那が自分で作ってきた料理のおかずを箸に摘んで、俺の口元に運ぶ。
「ず、ずるいよっ。刹那ちゃん。私だって今日の夕飯を作るのを手伝ったでしょ」
「だって、カズ君がお腹が空いた。お腹空いたって騒ぐだもん。あんな子犬のような目で見られたら、ついつい餌をやってしまいます」
 いつのまにか、畜生以下犬のような扱いになっているな。俺。
「うっ。それなら仕方ないよね。カズちゃんに餌が欲しいなんて言われたら、私は絶対に断ることができないよ」
「そうでしょ。そうでしょ」
「というわけで喧嘩をしないように交互に私たちが作った愛情たっぷりの夕食をカズちゃんに食べてもらおうよ」
「異義なしです」
 と、更紗と刹那の協議により、俺の餌は二人交互に食べさせてもらえるようだ。
 ありがたくねえ。

 ともあれ、二人が作った料理は昔とは変わらない美味しい料理だった。
「もう、夜だね」
「そうだね。眠たくなってきたね」
 ずっと、監禁されているので時間帯が全く把握できていないが、この部屋に動いている時計を見る限りでは23時頃を迎えていた。夕食の食事を食べ終えた後、更紗と刹那は後片付けするためにこの部屋を出て、更に入浴するために2時間以上は部屋にはいなかった。今はパジャマに着替えて、濡れた髪をドライヤ-で乾かしている最中である。
 こんな光景を見ていたら、やっぱり女の子なんだなぁと感心するが、監禁されている状態だと違った印象を受ける。てか、俺の入浴タイムはないんですかい。
「カズ君。1日縄で縛られていて痛かったでしょ? 寝る時は外していいよ」
「縄を外すのはともかく、もうすぐ就寝するのにベットが一つって」
 問題はそれであった。
 この部屋は俺を監禁するために用意された部屋なのはわかる。夜になれば、二人とも自分の部屋に戻ると思っていたが。更紗と刹那はここに泊まる気まんまんだ。しかも、ベットは一つで体を覆い隠す布団も一つ。もしや……。
「何言っているの? カズちゃん。一緒に寝るんだよ」
「ええっ!? ちょっと。俺達はもう男と女なんだぜ? 一緒に寝るって、間違いがあったらどうするの?」
「間違いがあった方がいいもん」
 と、拗ねるように更紗は口を尖らせて言った。
 いいもん……じゃないでしょ。この子は。
「カズ君を調教するのはかなり良かったんですけど、更紗ちゃんと私はカズ君と一緒に寝るのが一番楽しみだったんです」
「だって、カズちゃん。私たちが最初に桜荘に来た日から一緒に寝てくれないじゃない」 そんな犯罪行為をやれば、他の桜荘の住人がブチ切れる。デビル美耶子は潰れたバイト先のカレー専門店『オレンジ』で何度も大食いに挑戦するわ。雪菜は常にヤキモチモ-ドで機嫌が悪くなって、桜荘の唯一の良心である安曇さんは包丁を片手に持って、静かに含み笑い声を響かせて、夕食の材料を切り刻んでいるんだぞ。まな板が粉々になるまで切り刻むって、どれだけ力を入れたのか俺は安曇さんに聞けなかった。
 ヘタレの俺に一緒に寝るなんて当然無理です。
「つい高校生の時は一緒に寝てくれたのに」
「更紗ちゃんが告白する前までね」
「今更、過去のことを振り返っても仕方ないと思うんだが、監禁するのはともかく。調教の内容は昔の俺達がやっていたことを再現していないか?」
「ぎくぅっ!! そんなことないよカズちゃん」
「ううん。調教の内容に関しては更紗ちゃんと徹夜して協議したんですから」
「キスはともかく、夕食で食べさせてあげるとか。今夜、一緒に寝ようとか。その辺あたりかな」
「はにゅっーー!!」
「うにゅっーー!!」
 更紗と刹那は変な奇声を叫びながら、両者の頬がトマトのように赤く染まってゆく。
 1年前。
 俺達が高校生だった頃。更紗と刹那が作ってくれた夕食を一緒に食べて、夜になると一緒に寝るのは生活の一部だった。とはいえ、さすがに一緒に寝るのは土日ぐらいであった。そんな一般的な幼馴染の関係を大きく外れているのは複雑な事情がある。
 お互いの家が隣同士で親が友人同士の間柄ではあるが、それではただの幼馴染で終わっていたかもしれない。俺や更紗や刹那に共通していたのは親たちが小さな頃から1週間以上家を明けることが多かった。何の仕事をしているのかは知らなかったが、子供を置いて海外を飛び歩いていたのは確かなことである。親達は子供たちのことを心配して、俺や更紗と刹那をできる限り一緒にいることにさせた。親達が海外で働いている間は俺の家で更紗と刹那は一緒に暮らし、一緒に衣食住と共に過ごしていたのだ。
 だから、他の幼馴染達とは違って、俺達の間には深い絆が存在していたかもしれない。「か、カズちゃんは監禁されている身なんだから、そんな余計な事を考えなくていいの」「も、もう。カズ君ったら。縄を外してあげますから、寝ましょうね」
 刹那が俺を拘束していた縄を解いてくれる。今が監禁生活から脱出する絶好の機会なのだが、才女である更紗と刹那は同時に俺の腕に抱きついた。
「あ、あの、何を?」
「か、カズちゃんが逃げないようにちゃんと抱き締めておかないと」
「逃げたら、困るもんね」
「逃げないって、更紗と刹那は心配性だな。もうっ」
 更紗と刹那は俺の腕を離さずにしっかりと抱き締めて上目遣いで見つめてくる。そんな瞳で見つめられたら、俺は何も言うことができずに大人しく布団の上に倒れこんだ。
「カズちゃん。お休み」
「カズ君。お休みなさい」

 消灯を消して、数分後ぐらい経ってから。
 更紗が何か嬉しそうな声で言った。
「こうやって、私とカズちゃんと刹那ちゃんで一緒に寝ているとさ。昔のことを思い出すよね」
「確かに。一緒に寝ていたのは小学生の頃だろ」
 少なくても、小学生の時は俺と更紗と刹那は川の字になって一緒に寝ていた。あの頃は男と女の関係を気にせずに一緒にいられることができたが。
「台風が来た時に恐がって震えていた私と更紗ちゃんをカズ君が頭を優しく撫でて、『恐くないから、大丈夫だよ』と言ってくれました」
「それも懐かしい思い出だな」
「なのに……中学生になるとカズちゃんと一緒に寝るのが週2~3日。高校生になったら、週1日になっちゃった」
「いや、恋人同士でもないのに異性と寝るのは非常識以前の問題だって」
 だが、普通にその非常識以前の問題が週1回に行なわれているのだから、あの頃はもっとも異常だったんだな。
「カズ君の肌に触れられないと……淋しかったんですからね」
「そうだよ。カズちゃんの体はいつも温かいもん」
 と、頬を擦り擦りと甘えてくる。もう、可愛いなこいつら。


 こうして、俺は監禁された初日はこうやって終わりを告げた。
 成長した幼馴染の暖かな温もりを感じて、俺の胸の鼓動は高鳴っている。
 これでいい。
 全ては。

俺の計画通りだ。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント


なぬー!けっ、計画通りだとーw
主人公策士だw
GJ!そしてトラ氏嵐に負けずに頑張って下さい。
【2009/01/30 20:15】 URL | ピグマリオン #- [ 編集]


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